京都大学大学院理学研究科化学専攻 京都大学理学部化学教室

menu

有機元素化学分科

 私たちは、有機化学を基盤に、有機エレクトロニクス材料や近赤外色素などの新規有機材料の合成開発と機能開拓に取り組んでいます。

研究課題1 前駆体法を利用したπ共役拡張芳香族化合物の開発

 π共役拡張化合物はその電子構造から有機半導体材料や近赤外色素として魅力的な化合物です。しかし一般に、π共役が拡張するとともに溶媒への溶解度が低下し、HOMOエネルギーが浅くなることから酸化されやすくなり、合成が困難です。私たちはπ共役拡張化合物を高純度に合成する戦略として、前駆体法を用いて様々な機能性材料の合成を行っています。光照射によりCO分子を放出するStrating反応や逆Diels-Alder反応は、定量的に反応が進行するため、前駆体を十分精製することで、難溶な芳香族化合物を高純度に合成できます。これら前駆体法を武器に様々なアセン、ポルフィリンなどの機能性有機材料の開発を行っています。

研究課題2 機能性材料の集積プロセスの開発と有機エレクトロニクス特性の発現

 ペンタセンなどの有機半導体を用いた有機薄膜太陽電池(OPV),有機電界効果トランジスタ(OTFT),有機発光ダイオード(OLED)は次世代デバイスとして盛んに研究が行われています。ペンタセンなどのアセン類は一般的な有機溶媒に溶けにくいため,薄膜作製には真空蒸着を必要としますが,低価格・大面積化・フレキシブルなどの利点により,真空蒸着を用いない溶液プロセスによる成膜が必要です。通常ホッピング伝導を示すことが多い有機半導体材料ですが,分子骨格と薄膜中の分子配向を制御することでバンド伝導が可能となり,高い電荷移動度を示すことが最近わかってきました。前駆体法を自在に操ることで分子骨格,置換基,成膜プロセスなどの改良や分子配向の制御を実現し,優れた有機エレクトロニクス材料の開発に展開しています。

研究課題3 基板表面支援合成によるナノカーボン材料開発への挑戦

 前駆体法は、in-situでの反応が可能なため、超高真空下基盤表面支援合成にも適しています。例えば前駆体法と走査型トンネル顕微鏡や原子間力顕微鏡を組み合わせ得ることで、高次アセンのように難溶で不安定な化合物の合成と電子構造解明が可能になります。また次世代材料として期待されるグラフェンナノリボンなどのカーボンナノ材料やシクラセンのボトムアップ合成にも展開しています。

研究課題4 典型元素化学による新規物質の開発

 典型元素、特に第三周期以降の高周期典型元素(ケイ素、ゲルマニウム、リンなど)化合物は、炭素・窒素・酸素といった従来の有機化学で扱う第二周期元素化合物ではみられないユニークな構造、反応性、物性などを示します。そのため、革新的な材料開発につながる「物性・機能の宝庫」として注目されています。
 私たちは、典型元素化合物を有機化学の手法を用いて取り扱い、その優れた物性や反応性を引き出す新しい構造の創出を目的に研究を行っています。特に、ケイ素やゲルマニウムなどの高周期14族元素を中心としたπ電子系化合物(多重結合化合物や芳香族化合物)の合成と機能解明を中心に研究を行っています。これらの持つ結合は極めて反応性が高く、容易に多量化してしまいますが、研究室で開発した「かさ高い置換基」(立体保護基)を活用することで多量化を抑制し、室温でも取り扱える化合物として合成・単離が可能です。最近では、立体保護基を用いずとも安定化できる手法を構築しつつあり、新たな展開を目指しています。
 このように、典型元素のもつ「元素特性」の抽出・確立に基づく新しい物質群の創出と機能性材料への応用、典型元素化合物の構造と反応を系統的に理解する包括的概念の開発を通じて、物質科学の発展に貢献することを目指しています。

(最終更新日;2023年04月21日)