京都大学大学院理学研究科化学専攻 京都大学理学部化学教室

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分子構造化学分科

准教授 武田 和行 助教 野田 泰斗

高周波電波で分子と交信する

広い意味で「分子の構造」とは、分子の「かたち」はもちろん、分子が「運動する様子」や「電子の分布」も含みます。これら人の目では全く見ることのできない分子の個性を何とかして「見る」ことで私たちは、この世界に存在する多様な物質が発現する様々な性質を探ろうとしています。何だか面白そうでしょ?そして私たちは分子の構造を探るために、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance: NMR)という現象を巧みに利用して研究を行っています。

分子は原子からなり、原子は原子核(と電子)から構成されています。実は原子核には磁石の性質があり、NMR装置(下図)を用いて数メガヘルツ〜1ギガヘルツ程度の高周波電波を送受信することで、原子核と「交信」することができます。そしてなんと原子核の磁石は、自分が属している分子の「かたち」や「運動する様子」や「電子の分布」を反映した信号を発しています。したがってこの信号を解析することにより(コンピュータシミュレーションを駆使したりする。ほとんど暗号解読だ!)、分子の構造を推理することができるのです!さらには、逆に私たちが電波を分子に送ることによって、原子核の磁石の振る舞いを操ることさえ出来ます。ではたとえば、分子内のある水素原子と炭素原子の間の距離を知るためには、どのように電波を送って帰ってくる信号をどのように解読したらいいのでしょう?これこそ、私たちが目指している、「NMRの方法論の開発」の研究の一例です。また、新たに開発した方法論を応用して、調べたくてもこれまでは分析が困難あるいは不可能だった物質の分析を実際にやってのけるのも私たちの重要な研究テーマです。最近では、アルツハイマー病に関連したアミロイドβなどの生体分子、包接化合物、構造転移を起こす高分子、金属ナノ粒子、超伝導体などの分析に取り組んでいます(2008年3月現在)。

つまり私たちは、NMRの新しい方法論を発展させて新たな分析の目を生み、今までは不可能であった分析を可能にすることによって科学の飛躍的な発展を促すことを目指しています。将来皆さんと一緒に最先端のNMRの研究ができることを楽しみにしています!

NMR装置の外観。超電導電磁石(右)と高周波送受信機(中央)とコンピュータ(左)で構成されている。

(最終更新日:2013年04月03日)