京都大学大学院理学研究科化学専攻 京都大学理学部化学教室

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無機物質化学分科

教授 堀毛 悟史 助教 金森 主祥 助教 門田 健太郎

私たちは無機化学や超分子化学に基づき、無数の金属と分子を連結して作られる様々な構造体の合成と材料機能について研究を行っています。金属の結合様式や有機配位子の形を組み合わせ、多彩なネットワーク構造を持つ結晶をつくります。またその相転移現象を利用し、金属と分子が織りなすガラスや液体といった「不規則な」相の理解と制御に取り組んでいます。

金属-分子構造体によるガラスと液体の合成と機能

 無数の金属と分子を様々な化学結合で自己集合させることにより、多彩な分子性骨格構造をつくることができます(図1)。配位結合でつなぎ合わせたネットワークは金属-有機構造体(Metal-organic framework, MOF)とも呼ばれ、多孔性材料として実用化に至っています。原子・分子スケールで構造を制御するとともに、手に取るサイズのガラスや液体といった物質のマクロな形まで対象とすることにより、これら不規則な相に内在する構造秩序の制御と機能発現に挑戦しています。具体的な研究テーマの例は以下に挙げられます。

  • 金属-分子構造体ガラスによるプロトン伝導体や透明電子伝導体の創出
  • 光によるガラス-結晶スイッチングとメモリ素子への展開
  • 金属-分子ネットワーク性液体によるガス分子の分離と輸送

図1 金属と分子から組み上がる構造体の例、およびそれらが示す結晶・ガラス・液体相

金属-分子構造体の化学に基づいたCO2変換と貯蔵

 増加を続ける地球上の二酸化炭素:CO2は、地球温暖化や海洋酸性化など環境問題の原因です。一方で、CO2は地球上に普遍的に豊富に存在する資源でもあります。我々は金属-分子構造体の化学に基づき、CO2を有用な化合物や材料に変換する研究を行っています。以下に例を挙げます。

  • アミンなどの有機分子と金属イオンが混ざった溶液に、常温・常圧のCO2を吹き付けることで、瞬時に金属-有機構造体:MOFを合成できることを見出しています(図2)。この手法を用いると、空気からMOFを含む様々な固体材料をCO2から合成することが可能です。また構造体の構築と分解をサイクルとすることで、空気中の微量のCO2を濃縮・高純度化する技術を開発しています。
  • 金属-分子構造体ガラスに触媒分子を組み込み、CO2を化成品原料である一酸化炭素やギ酸に変換するハイブリッド触媒を開発しています。特に高分子やセラミックスでは難しい中温領域、低加湿で利用可能なプロトン伝導ガラス膜を用いてCO2を電解還元することで、化成品原料を製造します。また電気化学の力を併用し、電極においてCO2を高速かつ多量に貯蔵・放出するデバイスの開発も行っています。

図2 常温・常圧で二酸化炭素を有用な固体物質に変換する手法開発

有機-無機ハイブリッドによる柔軟多孔体の作製

 無機と有機の複合体からなる物質のもうひとつの例として、ゾル-ゲル法などの液相法により作製される、有機-無機ハイブリッド物質が挙げられます。例えば、メチル基やビニル基などの有機置換基 R をもつ有機トリアルコキシシラン(RSi(OR’)3)を前駆体として用いると(図3)、無機部位と有機部位が分子レベルにおいて複合化した有機−無機ハイブリッド物質が得られ、有機官能基による機能発現や、無機物質特有の脆さの改善などが可能となります。

 我々は、このような前駆体から透明な低密度多孔体(エアロゲル)を作製する手法を開発し、機械的な柔軟性や極めて低い熱伝導率を示す材料が実現できることを示しました。現在、この手法を応用した柔軟多孔体の作製・構造評価・応用研究を進めています。特に、効率の良い断熱材を簡単に作ることができるようになれば、化石燃料への依存度を減らし地球規模の環境・エネルギー問題解決に貢献することができると考えています。

図3 ゾル-ゲル法によって得られる柔らかい有機-無機ハイブリッドエアロゲル

(最終更新日;2023年04月20日)