京都大学大学院理学研究科化学専攻 京都大学理学部化学教室

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無機合成化学分科

 液相で無機(金属、金属カルコゲニド、金属酸化物)ナノ粒子の一次構造(粒径、形状、組成、相分離様式)および二次構造(空間規則配置)を精密制御することにより、閉じ込め電子数、電荷密度、電子振動波長、励起子寿命、スピン、触媒能の制御を行うことができ、革新的エネルギー機能(室温単電子輸送、高効率フォトン濃縮、長寿命電荷分離、磁気交換結合、可視光水完全分解)の創出に結びつけることができる。以下に、無機合成化学分科で行っている研究内容を示す。

金属クラスター単電子エレクトロニクス

6個のポルフィリン分子に囲まれた金クラスターを単電子島とする単電子トランジスタ

 1996年のAndresらによる二重トンネル接合を介した金クラスターにおけるクーロン階段の発見以来、金属クラスターの単電子トンネルデバイス(単電子トランジスタ、フローティングゲートメモリ)への応用が注目されるようになった。すなわち、帯電エネルギーの大きな粒径2 nm程度の金属クラスターは電極間で静電容量の小さい単電子島として振る舞うことができ、室温でのクーロンブロッケード現象の発現が期待できるため、室温単電子トンネル効果を利用したデバイスへと展開できる。

 当研究室では、5 nm以下のナノギャップ電極間に、大環状π共役分子で囲まれた金属クラスターを単電子島として選択的に集積することにより、常温で確実に動作する「高精度にサイズ制御した単電子デバイス」による論理回路の構築を目指している。

導電性ナノ粒子プラズモニクス

単結晶立方体金ナノ粒子からなる波長可変プラズモン導波路

 導電性物質中の多数の自由電子は、特定波長の光の電場に共鳴して集団振動する。この状態がプラズモン共鳴である。局在表面プラズモン共鳴(LSPR)は、導電性ナノ粒子中の自由電子が入射光のある波長に共鳴して集団振動するときに観察される。自由電子の集団振動による分極の結果、ナノ粒子近傍には増強光電場が誘起され、周囲の誘電体中で急激に減衰する。この電場増強は、光の回折限界を超えた微小領域に集約され、ターゲット分子を効率的に励起できるという点からも注目されており、非線形光学への応用などが進められている。

 当研究室では、あらゆる波長の光を隈なく利用するために、導電性ナノ粒子の粒径、プラズモン結合、電荷密度(自由電子密度)の制御による紫外−近赤外領域でのLSPR波長制御と新規光化学反応への応用を目指している。

高性能交換結合ナノコンポジット磁石の創成

L10-FePd/α-Fe異方性交換結合ナノコンポジット磁石

 高磁化を有する軟磁性相と高保磁力を有する硬磁性相を組み合わせた構造を持つ交換結合ナノコンポジット磁石は、軟磁性相と硬磁性相の間に働く交換相互作用により、高保磁力と高磁化を併せ持つことができ、磁石が単位体積あたりに蓄えることのできる最大のエネルギー値(最大エネルギー積)が非常に高い高性能永久磁石として期待されている。効果的な交換結合の発現には、軟磁性相と硬磁性相のナノスケールでの精密な制御が必要であり、ナノ粒子をベースとした高性能交換結合ナノコンポジット磁石の創製が注目されている。

 当研究室では、異方性相分離 Pd/γ-Fe2O3ヘテロ接合ナノ粒子のヘテロ界面原子拡散により、世界最高の最大エネルギー積を有するL10-FePd/α-Fe異方性交換結合ナノコンポジット磁石の創成を目指している。

光エネルギー変換材料の開発

可視光応答水完全分解光触媒の概念図

 化石燃料の枯渇・燃焼による地球温暖化が問題となっている今日、化石燃料の代替エネルギー源が求められており、無尽蔵の太陽エネルギーの化学エネルギーや電気エネルギーへの変換が大きな注目を集めている。なかでも、太陽光による水分解反応で得られる水素は、次世代のクリーンエネルギーとして重要である。

 当研究室では、可視光で水完全分解(H2O → H2 + 1/2O2)を可能にする半導体光触媒の開発を行っている。また、高効率光電変換デバイス(化合物半導体太陽電池)応用に向けたタイプⅡ型(例えば、CdS/CdTe)ヘテロ接合ナノ粒子の開発や、固体高分子型燃料電池への水素供給を目指したメタノール水蒸気改質ナノ粒子触媒の開発も行っている。

(最終更新日;2016年02月01日)