京都大学大学院理学研究科化学専攻 京都大学理学部化学教室

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機能性界面解析分科

多くの化学過程の理解に、界面での分子間相互作用や溶液中での溶媒和の詳細な理解は欠かせない。構造的にゆらぎのある界面での分子間相互作用を分子の一次構造と関連づけて理解するためには、ナノ~メソスコピックなスケールでの双極子相互作用異方性を明らかにできるとよい。このため、固気・固液・気水・液液界面での分子吸着構造や動的分子再配向の機構を明らかにする新しい分光学的解析手段を考え、未知の界面現象の発見を通じた、新しい機能性界面の創成を目指す。また、溶媒の果たす役割を、分子間相互作用から明らかにし、溶媒効果によって制御された環境調和型化学反応の開発につなげる。

フッ素化合物の統一的基礎学理を構築する

パーフルオロアルキルに代表されるフッ素化合物は,疎水性・高誘電率・低溶解性・高融点など,際立ったバルク物性が知られ,実用的にはこれらの性質が「常識」として受け入れられ,広く使われている.しかし,フッ素が大きな電気陰性度を示すという基本に立ち返ると,C-F結合に大きな双極子があることは間違いなく,本質的には親水性や高誘電率を示すべきである.こうした論理的不整合を克服することは,既存の考え方では無理であった.理学系化学の研究テーマとして,この未解明問題に取り組むことは,フッ素化合物を経験や勘に頼らずに分子設計できる分野に変えていくための基礎原理を構築することである.

上記の不整合は,「1分子」と「分子集合系」の場合を混同していることが原因である.図aに示すように,パーフルオロアルキル(Rf)基は1分子の状態では強く分極しており,この時点では親水性でないとおかしい.Rf基は炭化水素鎖とは異なり,C-F結合間の双極子反発が原因でねじれ構造を持ち(図b),それを図cのように簡便な形で表現することで,自発的にヘキサゴナル集合体を形成することがわかった.これにより,分極した分子表面は2次元集合体の中に隠れ,親水性が「見えなくなる」.このように,フッ素化合物の化学の理解に,界面化学は最高の研究舞台なのである.

このモデルを,実験および理論計算により検証することで,統一的基礎学理の構築を目指す研究を現在推進している.2次元分子集合系の実験的解析には,界面化学と振動分光学が極めて有力である.またC-F結合からなるRf基の基準振動は,これまでほとんど解析が進んでおらず,分光学的にも未開拓領域を多く持つフッ素の化学は,分光学・物理化学・分析化学・材料化学・有機化学にまたがる極めて魅力的な新しい学問分野と考えて研究を展開している.


MAIR分光法の構築と応用に関する研究

分子や粒子の並び方は、化学構造と機能を結びつけて考え上で鍵となるもので、双極子相互作用を通じて理解できる。配向した双極子の集合系は誘電率異方性としてスペクトルに現れる。MAIR分光法は、誘電率異方性を2つの吸収スペクトルとして同時に測定する方法で、双極子の並びと相互作用の方向や程度を明瞭に描き出せる、本研究室で生まれた新しい測定概念を伴った測定法である。 たとえば、可視MAIR分光を用いると、金属ナノ粒子薄膜での局在プラズモンが、どのような双極子相互作用から成り立っているかを知ることができ、表面形状と結びつけた議論が可能になる。

また、MAIR分光法の原理を支える多変量解析は、物理化学や構造化学では始まったばかりの分野で、この領域での将来を切り開いていく。

溶液の混合ダイナミクスの理解

界面化学を微少な領域まで突き詰めると,分子表面での分子吸着(溶媒和)が課題となり,溶液の成り立ちを理解する上でも魅力ある分野を形成する.振動分光学に新しスペクトル解析手法を組み合わせ,溶媒和構造と溶液のマクロな物性とを結ぶ分子論的な機構を理解する研究を行っている.電磁気学的なスペクトルの表現を熟知したスペクトルの定量的解釈に始まり,多変量解析やストップトフローFT-IRといった溶液混合の新たな研究道具を用いた研究指針を推進している.

(最終更新日;2017年04月03日)