京都大学大学院理学研究科化学専攻 京都大学理学部化学教室

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結晶化学分科

准教授 治田 充貴 助教 根本  隆

極微小構造状態分析化学

身の回りにある多くの物質は原子や分子が規則的に配列した結晶から成り立っています。その配列構造は多彩で結晶の様々な性質に大きくかかわっています。中には欠陥や異なる結晶と接することにより界面や粒界が形成され、物質の性質に影響を与えます。当研究室では、電子顕微鏡や走査プローブ顕微鏡を用いて結晶の構造や成長様式を探求しています。「百聞は一見にしかず」という言葉にあるように、顕微鏡的手法を駆使して原子・分子を直接観察することにより、ナノ領域の構造や電子状態を分析する研究を行っています。

サブテーマ1:先端電子顕微鏡開発と界面構造状態分析

物質の微細な構造を観察することを目的に、これまで超高圧電子顕微鏡をはじめとする多くの顕微鏡を開発し、世界に先駆けて分子構造の直接観察に成功してきました。最近では、構造観察だけでなく局所領域の組成・状態分析をも行うために、写真にある走査型透過分析電子顕微鏡を開発しました。この顕微鏡では電子線を0.1nm以下のサイズに集束することで、原子配列構造を直接観察すると同時に、固体内に存在する界面や構造欠陥における電子構造変化を探求することを可能にしています。このような高性能分析を実現するために、ナノティップ電子銃と呼ばれる高輝度電子銃を新たに開発しました。現在は、独自に開発した先端電子顕微鏡を利用して機能性酸化物や半導体の局所構造状態分析を進めています。

サブテーマ2:液体ヘリウム温度での顕微鏡解析

水は真空下において蒸発してしまうので、通常の電子顕微鏡では水分を含む状態の試料を観察することはできません。しかし、試料を急速凍結すると、蒸発を防ぎ水分を含んだ状態のまま真空中に保持することができます。極低温電子顕微鏡は試料を液体ヘリウム温度に冷却することで、こうした試料を極低温状態に保持したまま観察することができ、溶液中で生成する微粒子や溶液中に存在するミセル等の会合体・その他生物系試料や水和物の構造等を調べることができます。図は水中に形成された脂質二重膜リポソームの像です。また、試料を極低温に冷却することには、試料の電子線による損傷を軽減するというもう一つの利点が有り、有機物のように損傷を受けやすい試料の観察を可能にします。

サブテーマ3:有機エピタキシー

薄膜の構造を制御する手法の一つとして、基板の結晶格子を結晶成長の雛型とするエピタキシャル成長法があります。この手法は大面積の均一な薄膜結晶を成長させるのに便利なので無機薄膜結晶について広く応用されていますが、有機薄膜結晶を作製しようとすると、分子の形状が複雑であったり、異方性の双極子モーメントをもっていたりしてなかなか思い通りにはいきません。そこで、有機薄膜の構造を制御していくうえで、結晶構造形成のメカニズムを実験的に明らかにするとともに、走査プローブ顕微鏡による分子操作による構造構築やエピタキシャル成長の際に他の分子を共吸着させて構造を変化させる試みも行っています。図はグラファイト基板上で4種類の構造を作りわけてSTM観察したものです。

サブテーマ4:機能デバイスの化学

近年、電子デバイスの微細化に伴い、表面や界面における局所構造や格子欠陥が全体の特性を左右する局面が増えてきています。本研究室では機能性有機薄膜を中心に、色素増感太陽電池の電極や有機薄膜トランジスタにおける電導特性などについて、構造面、物性面の双方からアプローチし、デバイス特性を決めるキーポイントの解明などを試みています。図はポルフィリン錯体結晶とその単結晶トランジスタの特性です。同じ錯体を使用した多結晶トランジスタと比べて格子欠陥や結晶粒界が少なく、分子本来の特性に近い、格段に高いキャリア移動度が得られています。

(最終更新日;2013年05月13日)