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■京化■京都大学理学部化学科・京都大学大学院理学研究科学専攻
 

流体化学分科

講師 吉村 洋介

流体の「当り前」を科学する

分子論に立脚する流体の研究は、19世紀のvan der Waalsらに代表される古典的な研究以来すでに100年以上の歴史を持っています。ですからもう確立された分野のように見えますし、今も活発な研究が行われています。けれども、一歩、その内実に踏み込んでみると、そうした研究を動機づけるべき、流体・流体中の諸現象に対する分子論的な描像の貧しさに気づかされます。

 たとえば水とアルコールを混ぜると体積が1割程度減少することは“異常”と呼ばれます。そしてこの“異常”を明らかにするために、さまざまな手法を駆使した実験的、理論的な検討が行われてきました。しかしそれでは、“正常”とみなされる系はどうなのでしょう。丸い分子からなる四塩化炭素と、細長い分子からなるヘキサンを混ぜたときに、0.1 % オーダーの体積変化しか現れないことが、なぜ“正常”なのでしょう。私たちは“異常”の追求に対して余りに急であり、その結果“正常”を見失っているのではないでしょうか。そしてそれが逆に“異常”を明らかにすることができない結果につながっているのではないでしょうか。

 “非日常性”をただちに分子論的な“異常”に直結させるありようを捨て、「分子論的に見て、何が正常なのか」、「何が当たり前なのか」を理解することが、当分科の基本のスタンスです。ですから「なぜ有機液体の密度は水より軽いのか」「なぜ温めると粘度は下がるのか」などなど、当たり前のように見過ごしてしまいかねないことを不思議だと思う感性、感受性を大切にしたいと思っています。そしてそうした新鮮でしなやかな感性が、従来からの液体の化学と切り結ぶところに大きな可能性を見ています。

剛体円盤流体中に置かれた半月盆状分子周りの典型的な流体構造

 たとえば、パチンコ玉からできたような流体中に半月盆形の分子を置くと、その周りに図に示すような複雑な流体構造が形成されます。こうした構造を見て皆さんは何を感じるでしょう。これは「当たり前」でしょうか?もし「当たり前」だとするなら、それはどんな「当たり前」な熱力学的あるいは分光学的性質として、私たちは見出すことになるでしょう。そこにはまた新しいの化学の芽があるのかもしれません。

(最終更新日;2018年04月05日)

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