go to English now in Japanese
■京化■京都大学理学部化学科・京都大学大学院理学研究科学専攻

放射線生命化学分科

講師 木野内 忠稔 助教 齊藤 毅

D-アミノ酸を指標とする加齢の化学

タンパク質を構成するアミノ酸はすべてL-体であるために正しい折りたたみ構造を形成し、その機能を発揮しています。アミノ酸はグリシンを除いてL-型とD-型からなる光学異性体が存在しますが、生命の発生以前の原始地球上ではD-アミノ酸が排除されてL-アミノ酸のみからなる原始タンパク質が形成され生命が誕生しました。従って、私たちの身体の中でD-アミノ酸が生成されることはないとされてきました。しかし、私たちはこの常識を覆し、眼の水晶体の主要タンパク質であるα-クリスタリンの特定部位にD-β-アスパラギン酸(Asp)が加齢とともに多量に蓄積されていることを発見しました。進化の過程で獲得した片手構造が老化の過程で失われているということになります。その生成機構について検討したところ、正常のL-α-Asp残基 は、5員環イミドを経て反転し、加水分解してD-β-Asp残基へと異性化することがわかり、その起こりやすさはAsp残基の隣のアミノ酸の影響や周辺の立体構造に依存することが明らかとなりました。この反応は放射線や紫外線によっても促進され、他の翻訳後修飾(ペプチド結合の切断、アミノ酸の酸化、AGE化(非酵素的糖化))とも関連しています。

加齢組織ではタンパク質の構造変化による異常凝集が原因となって生じる疾患(白内障、加齢性黄斑変性症、アルツハイマー病、パーキンソン病、動脈硬化症、皮膚硬化症など)が知られていますが、タンパク質異常凝集化のきっかけや発症のメカニズムは解明されていません。上記の疾患ではいずれもその原因タンパク質中にD-Aspが見つかっています。私たちは「タンパク質異常凝集化のひきがねは構成アミノ酸のD-体化によるものではないか?」という考えに基づいて体内の様々な部位で一見無関係のように生じている種々のタンパク質の異常凝集をD-Aspを分子指標として統一的に理解し、治療への道を探っています。

主な研究テーマは下記の通りです。

  1. 放射線、紫外線、老化などによって生じるタンパク質中での異常アミノ酸の増加とタンパク質の構造変化、異常凝集化、機能変化に関する研究
  2. タンパク質中でのD-アミノ酸生成機構の解明
  3. 紫外線による皮膚のタンパク質損傷と光老化マーカーとしてのD-アミノ酸の有用性に関する研究
  4. プロテオミクス的手法によるD-β-Asp含有タンパク質の網羅的探索と疾患との関連
  5. D-Asp含有タンパク質特異的分解酵素(DAEP)の性質と構造に関する研究

D-アミノ酸を分子指標とした老化の研究は当研究室がパイオニアです。一緒にこの新しい分野の研究を楽しみませんか?見学は随時可能です。

(最終更新日;2017年04月03日)

© Kyoto University 2008