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■京化■京都大学理学部化学科・京都大学大学院理学研究科学専攻

分子集合体分科

有機分子が集合した結晶や薄膜について、その構造と電子構造の相関を調べて光や電子の挙動が係わる電子物性の発現機構の解明を行うとともに、得られた知見を活かして新しい電子物性を示す分子システムの構築指針の発見や実際の創製に向けた研究を進めています。

関心の中心には“有機半導体”があり、その中の分子集合構造を種々の回折法・分光法で調べ、電子物性を特徴づける(エネルギーギャップを挟んで位置する)フロンティア状態の電子構造を電子分光法により観測して構造-電子構造相関の解明に取り組む一方、電子状態・挙動の観点から特徴的な機能性分子、新奇な分子集合形態、特異な動的挙動を示しうる分子システムなど、その設計や構築にも挑んでいます。なお、自力開発した装置で行っている有機固体のフロンティア電子構造の直接的観測は、他では容易に行える訳でないこともあり、当分科の研究手法の一つの軸となっています。

以上、一言でいえば、有機分子集合体の構造-電子構造-電子物性の相関を念頭に置き、解析的な研究と合成的な研究を“車の両輪”のようにバランスをとりつつ、物性化学の視点から‘面白い’分子システムを発見し創ることが当分科の研究目的です。以下、その研究例についてやや具体的に紹介します。

1.有機固体・薄膜とその表面・界面の電子構造解析

有機半導体の草分けといえる縮合多環芳香族炭化水素のペンタセン(C22H14)は、有機電界効果トランジスタ(OFET)の活性層材料として再び関心を集めています。その薄膜は、単結晶相、バルク相、薄膜相と呼ばれる“多形”を示します。単結晶相は名前のとおり単結晶と同じ構造ですが、バルク相とペンタセン薄膜OFETの多くを占める薄膜相の構造は、研究例が少なくなかったにも拘らず、最近まで確定していませんでした。

そこで、視斜角入射X線回折(GIXD)、薄膜相については逆格子空間マップ(RSM)法を初めて有機物に適用し、図1に示すように両相の構造を正確に決定しました。その結果、得られた構造データを使って各多形のエネルギーバンド計算が可能になり、紫外光電子分光法(UPS)の実験結果と図2のように比べて、薄膜の構造と電子構造との相関を明らかにすることができました。

図1.ペンタセン薄膜の (a) 単結晶相、(b) バルク相、(c) 薄膜相の構造比較

図2.ペンタセンのUPSスペクトル (a) バルク相、(b) 薄膜相とバンド計算によるそのシミュレーション (c) バルク相、(d) 薄膜相

また、薄膜相を作るのと基本的には同じ条件で調製しても、その際の基板温度を変えると異なる構造の膜が生じることを、X線回折だけでなく原子間力顕微鏡でも確認し、また逆光電子分光法(IPES)により空状態の電子構造にも違いがあることを明瞭に捉えました。

炭素と水素だけからなる一見地味なペンタセンでさえ?このように多様な構造と電子構造を示す訳ですから、種々の特徴をもつ分子の集合体には計り知れない可能性があり、研究グループとしての展望をもってその可能性を追究しています。

2.新奇な電子物性を示す分子集合系の構築

顕著な電子物性の発現が期待できる分子集合体を創り出すため、予め集合形態を構想して設計・合成する初めての分子や、前例のない集合化制御を適用する既知分子から、新しい分子系を産み出す研究も進めています。

図3.BMDCMの分子構造

図4.BMDCMの結晶構造(a軸投影図):溶液成長晶(左)、気相成長晶(右)。

一例を挙げれば、電子供与性の基(ドナー、D)と電子受容性の基(アクセプター、A)を選んで“適度な”電子非局在性をもつ結合でつなぎ、高い両性と極性を併せもつ分子を創ると、分子内と分子間の電荷移動相互作用の兼ね合いにより、多様な集合構造が予想できます。その中には顕著な電子物性を示す特異な集合構造も期待され、その特徴をより端的に発揮しうる分子設計と分子集合化を進めれば、文字通りの機能性新物質が得られることになります。

このような発想から、図3に示す新規分子BMDCMを合成し、分子内電荷移動状態が環境に応じて変化する特徴的な分子特性をもつことを発見しました。また、異なる条件で結晶化を試みたところ、溶液成長と気相成長で色の違う結晶が得られ、構造解析から図4に示すように分子の積層カラムの相互配向が両者で異なることが明らかになりました。さらに溶液成長晶を加熱すると気相成長晶になり、一方、気相成長晶を溶媒蒸気にさらすと溶液成長晶になるという可逆性のある相転移を示すことも見いだしています。このような構造の違いは電子物性にも特徴的な差異をもたらしますので、さらにその方向での研究を進めています。

他にも、ヘテロ原子を含む共役分子や両性イオン分子など、特徴的な分子を選んでその特異な集合化を図り新しい分子集合系を創り出す研究を積極的に進めています。

3.動的物性の発現を導きうる有機固相反応の解明

環境変化や外場印加による分子内/分子間の結合や電子構造の顕著な変化が新しい電子物性の発現や特徴的な制御を導くような分子集合系を探しています。その有力候補の有機固相反応系は、これまで物性研究の視点から取り上げられることがありませんでした。この点に着眼し、反応と物性の協奏状態を見いだし展開しようというのが第三の研究課題です。

図5.熱異性化の反応式と反応機構の模式図

たとえば、反応式では図5の上のように書ける熱反応があります。しかし、この反応は溶液中ではほとんど起こらず、固相でのみ起こる反応と言ってもいいでしょう。そこで、この反応に着目し、X線回折などの構造解析手法、各種スペクトル測定による分光学的手法、遷移状態計算を含む量子化学計算を駆使して、反応のメカニズムについて調べました。その結果、図5の下に要約するように、メチルカチオンが分子間をリレーされるようにして反応が進んでいるとの結論を得ました。そしてさらに、シンクロトロン放射光を利用した最新の時間分解X線構造解析によって、この結論が正しいことを立証することができました。

したがって、この固相反応は、反応前後での分子極性の発生やメチルカチオン転移など、物性研究の観点からも興味深い現象であると言えましょう。

4.電気測定法による生体系の構造・機能相関の解明

当分科では、上記の「有機固体の物性化学研究」の外に、非破壊で「その場観測」が可能な電気測定、誘電測定による不均一系の構造-機能相関についても研究しています。とくに、生物物理の観点からの生体系やそのモデル系についての研究が中心です。

たとえば、水溶液中の脂質二分子膜・生体膜の膜/界面の構造と機能の相関を、電気生理学的な手法や誘電緩和法(誘電スペクトロスコピー)によって調べています。とくに、合成ペプチドが脂質二分子膜中に貫入してつくるイオン透過孔を生体膜のイオンチャンネルのモデルと考え、チャンネル構造とイオン透過機能との相関を解明しようとしています。

また、さまざまな環境下で起こる細胞の形などの変化を、走査型誘電顕微鏡や高圧力下での誘電測定法など、観測方法の開発も進めながら調べています。

(最終更新日;2016年04月01日)

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